虎の門病院
脳神経外科
頚部頚動脈狭窄症とは
頚部の頚動脈分岐部で、動脈硬化により血管が細くなる疾患です。動脈硬化が進行すると、血管壁にコレステロールなどの脂肪からなるドロドロした粥状物質がたまり(たまったものをプラークと言います)、次第に厚くなってくることで血管が細くなります。血管が細くなると血流が低下して脳梗塞になる危険性があります。さらに、細くなった血管に付着した血栓(血液の塊)や、動脈硬化をきたした血管壁の一部(プラーク)が剥がれることでも脳梗塞になる危険性があります。近年は人間ドックの普及や健康意識の高まりから脳梗塞発症前の無症候時に発見されることも多くなっています。
頚部頚動脈狭窄症による症状とは?
頚部頚動脈狭窄が原因で脳梗塞や一過性脳虚血発作、一過性黒内障等の症状をきたしたものを症候性といい、狭窄による症状を認めないものを無症候性といいます。
脳梗塞:
脳を栄養する血管が詰まる事によって脳の一部が死んでしまう状態です。脳梗塞がおきると右半身か左半身のいずれかに運動麻痺が出現したり、言葉がうまく喋れなかったり、意識がはっきりしなくなったりします。後遺症が残ることが多く、日常生活に手助けが必要になる可能性があります。
一過性脳虚血発作:
脳の一部の血流が一時的に悪くなる事によって運動麻痺などの症状が出現するものの、24時間以内に消失するもをいいます。症状が改善したとしても、その後に脳梗塞になるリスクがあるため速やかな対応が必要です。
一過性黒内障:
頚部内頚動脈は主に脳へ血流を送っていますが、一部は眼の網膜にも血流を送っています。細くなった血管に付着した血栓や、動脈硬化をきたした血管壁の一部(プラーク)が剥がれて網膜を栄養する血管がつまると目が見えなくなることがあります。これを黒内障といいます。症状は一時的で、多くは改善しますがその後に脳梗塞になるリスクがあるため速やかな対応が必要です。
頚部頚動脈狭窄症と言われたら
症候性の有無や狭窄の程度によってその後の治療方針が変わってきますので、まずは症候性か無症候性かを確認しましょう。次に確認すべきは狭窄の程度です。
血管の狭窄度の評価はいくつかの方法がありますが、NASCETという大規模臨床試験での評価方法が広く用いらており、狭窄度を30-49%までを軽度、50%~69%までを中等度、70%以上を高度と分類するのが一般的です。
次項ではまず症候性狭窄からご説明いたします。
症候性頚部頚動脈狭窄症の治療
症候性頚部頚動脈狭窄症とは、頚動脈狭窄症によって脳梗塞や一過性脳虚血発作、一過性黒内障等の症状をきたしたものをさします。症候性頚部頚動脈を放置した場合、既に脳梗塞を発症してしまった方は脳梗塞の再発をきたす危険性があるため治療が必要です。また一過性脳虚血発作や一過性黒内障にとどまった方も、頚動脈狭窄を放置すると脳梗塞を発症する危険性があるため治療が必要になります。
・狭窄が軽度の場合
一般的には血液をさらさらにする薬(抗血小板薬)の内服が勧められます。また狭窄が進行しないように高血圧、脂質異常症、糖尿病をお持ちの方は、それらの治療をしっかりとしていただくことをお勧めします。
ただし、狭窄が軽度でも動脈硬化をきたした血管壁の一部(プラーク)が脆くなって今にも剥がれてしまいそうな方は以下に説明する手術(頸動脈内膜剥離術)が必要になります。
・狭窄が中程度〜高度の場合
軽度狭窄でご説明した血液をさらさらにする薬や高血圧、脂質異常症、糖尿病の治療に加え手術(頚動脈内膜剥離術)が勧められます。手術に関しては、別項でご説明致します。
無症候性頚部頚動脈狭窄症の治療
無症候性頚部頚動脈狭窄症とは、頚動脈狭窄症によって症状をきたしていないものをいいます。ただし無症候といっても今後脳梗塞になる可能性があるため、動脈硬化のリスクファクターの管理(高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙)が勧められます。中等度以上の狭窄では、脳梗塞を予防する目的で血液をさらさらにする薬(抗血小板薬)の内服をお勧めします。高度の狭窄では、これまでご説明した動脈硬化のリスクファクターの管理、抗血小板薬の投与に加え、脳梗塞予防目的の手術(頚動脈内膜剥離術)をお勧めします。
手術に関しては、別項でご説明致します。
頚部頚動脈狭窄症の手術(頚動脈内膜剥術)
手術は全身麻酔で行います。全身麻酔をかけた後に頚部を約9cm程度切開します。切開はなるべく頚部のシワにそって行います。こうすることで、長期的には切開線が目立たなくなります。その後細くなった頚動脈を露出させ、頚動脈を切開して血管内のプラークを摘出します。プラークを摘出後は血管を縫合し、皮膚を縫合して手術を終了します。

頚動脈
頚部を切開し、頚動脈を露出したところです。

プラーク
頚動脈を切開し、プラークを摘出しています。

プラークの拡大像です。

術前造影CT

術後造影CT
手術前後の画像を比較すると、プラークを摘出することで頚動脈の狭窄が改善していることがわかります。
当科の治療成績
2010年4月〜2016年3月までに当科で186例の頚動脈内膜剥離術を行いました。
このうち症候性は87例で無症候性は99例でした。
術後に声枯れや飲み込みにくさが出現した方は4名(2.1%)でしたが、いずれも一時的な症状で最終的には回復しております。また術後30日以内に脳梗塞をきたした方は1名(0.5%)いらっしゃいましたが、手術と反対側の脳梗塞でした。また手術後30日以内に亡くなった方は2名(1.1%)いらっしゃいましたが、原因は不整脈と退院後原因不明の死亡でありました。
その他の方は全員経過良好で脳梗塞の再発は認めておりません。